自習ができるかできないかというのは、勉強の理解力と同じで元々は個人差があります。とはいえ学力に直接的に大きく影響を及ぼしますし、無視できるものではありません。進学校では、休みの日は一日6時間以上の自習が目安にされたり、夏休みに数百時間の自習をすることを共通目標として掲げられたりすることもあります。中学の段階で全く自習ができない人が、高校生になっていきなり長時間の自習をすることはまず不可能なので、進学校への進学を考えている方は小中学生の段階から自習する習慣をつけておいてほしいと思います。

自習が得意な人でも、目の前にゲームがあったり、横で大声で会話している人がいたりしたらできなくなってしまうように、自習の向き不向きというのは、単純に「自習できる」「自習できない」の2つに分類されるわけではなく、環境や状況次第で変わってくるものだと考えています。今回は自習ができない人や、苦手な人に向けて、どうすれば長時間の自習ができるようになるのかについて記事を書いていきます。

「環境づくり」が大事!

最も大事なのは、勉強の妨げになるものを目に入るところに置かないことです。何か物が目に入るとついつい手に取ってしまったり、気にしていなくても脳が本能的にその物のことを考えるので、集中力が散漫になってしまったりします。机の上は勉強道具だけにしておいて、勉強机の棚やデスクマットには何も置いていない状態が最も良い環境です。

本当に自習だけに特化した環境を作るのであれば、机だけでなく壁にも何も張っていない部屋全体がシンプルで殺風景になっている状態が理想ですが、生活空間なのでなかなか難しいと思います。せめて勉強中に視線が届く箇所には何も置かないようにしましょう。

また、家に使っていない部屋があれば、その部屋を自習室として使うのも良いと思います。

参考書や教科書などの勉強に使えるものは置いても大丈夫ですが(歴史のマンガ等はNG)、まず一度全く何もない状態から自習を始めて、ものを増やしていってそれでも自習ができたのであれば、その状態で良いと思います。自分が自習をできる環境がどのくらい物がある状態なのかを測ることができればという感じです。趣味のものや昔の思い出のものはついつい手に取ってしまうので、ない方が良いです。

そして、静かな環境を作ることも重要です。テレビやYouTubeや音楽を流しながら勉強すると体感では集中できているように感じても、実際は全く勉強内容を覚えられません。また、テレビなどを「見て聞く作業」と勉強の「考える作業」という別の作業を同時に行ういわゆるマルチタスクは、より疲労を促進してしまいます。長時間の勉強には全く不向きですし、短時間の勉強の場合は早く終わらせることはできても、身に付けることができる量は静かに勉強する時と比べて少ないものになってしまいます。

このように、長時間の自習をするにあたっては、視覚的にも聴覚的にも落ち着いた環境を保つことが大事です。

また、お金を使えるのであれば、耳栓やスタンディングデスクなどの勉強用にグッズを買うことも非常に有用です。

スマホは勉強中どうする?

分からないことを調べるときに手元にスマホがあるとすぐ検索出来て、とても便利のように思えますが、やはりマイナスの面が大きすぎます。スマホが手元にあるとSNSゲームもできてしまうので、自習できない学生にとっては大敵です。わからないことを調べるついでに「ちょっとだけ」と思ってSNS やゲームに触れてしまい、集中力が途切れてしまい、自習をする気が無くなってしまいますし、何よりすぐ調べることができて便利なはずなのに、余計に時間を食ってしまいます。

自習する上でスマホは一番の大敵になりうるので、基本的に勉強中はスマホを使用しないようにしてほしいと思っています。保護者による機能制限でゲームなど特定のアプリに触れさせないようすることは可能ですが、いくらでも抜け道・裏技があるのでおすすめしません。(抜け道を通ってきた経験者としてそう思います笑)勉強中はとにかくスマホに触れないことが大事です。できれば、勉強をする部屋には持ち込まない、◌時から○時までは使用禁止、というようなルールがあると良いと思います。

スマホ検索の便利さについて

分からないことをすぐ調べることができるというのは確かに便利ではありますが、将来高校や大学での研究や社会人になってからのことを考えると、この便利さ自体も決して良いと断言できることではありません。面倒なことを言っているように聞こえてしまうかもしれませんが、問題を解くことだけでなく、辞書や参考書を読んで、問題解決をするという過程も自習の一つです。例えば商業・工業高校や大学で研究をするにあたり、論文や史料をスマホで検索しようとしても多くはヒットしません。見つかったとしても、複数の論文を読み比べて独自の見解を出すことが求められる大学の論文作りには向きませんし、検索してすぐでてくるということは一般論化しているということなので、専門性が求められる大学の研究において優れたものであるとは言えません。

論文というのは1つ読むだけでも膨大な量です。参考書や辞書から必要な箇所だけを読み取る作業は、確かにスマホの検索と比べて面倒ですが、大学生になってから自分の論文を作る時に、膨大な量の論文の中から、自分の研究に必要な部分だけを読み取る作業の基礎になってくれます。

また、大手塾講師時代に英語を教えていた頃、明らかに学生のうちに習わない文法の使い方をして解答をする生徒がいることが時々ありました。アメリカ英語にしろイギリス英語にしろ私は本場の英語はわかっていませんが、このような明らかに学生のうちに習うものではない解答があるとき、生徒はスマホの翻訳サービスを使っていることが多いです。

中には、それが勉強になっていると本気で思っている生徒もいます。中高の英語では文法が大事で、その文法が土台になって様々な形で変化していくので、口語的に訳されるもしくは精度が低いネットの翻訳では、言うまでもなく意味がありません。正解できても、それは翻訳の力であって生徒のためになりません。そのあとの丸付けで間違える可能性を考えれば、答えを写すより面倒な作業をしています。スマホで翻訳するのであれば空欄のままの方がマシであり、もっと言うと上記のように辞書や参考書を使って取り組んでほしいところです。ちなみに教科書の内容であれば教科書の後ろの方に索引があるので便利です。

自習において求められる能力

ここまで主に環境面について書いてきましたが、では自習ができる学生の特徴と言えば何なのかについて考えてみます。

まず第一に、「集中力」がある点です。当たり前だと思われるかもしれませんが、先生や講師の前で勉強できても、家で一人で勉強できない学生は多くいますし、意外と簡単ではありません。

一人で黙々とする作業が得意な人には自習に向いた集中力があります。中学入学までに、静かな環境で一人で作業するような趣味や特技があるといいと思います。私の経験で活きているな、と感じるのは書道です。小1から大学卒業まで続けましたが、人が少ない時間帯に通っていたこともあり、静かな環境でどうすれば字をうまく書けるのか、手本とにらめっこして集中して書く環境ができていました。

黙々と作業する、という点ではゲームも当てはまりますが、音が入ってきてしまいうので、静かにできないという点であまり向いていません。ゲームすべてを否定しているのではなく、ゲームのジャンルによっては自分で考え、行動する能力は身につくと思う作品もあるのですが、結局音が入ってしまい、自習力を高めるために優先してするべきとは全く言えないので割愛します。

二つ目は「読解力」です。自習となると、分からないことを自力で調べることが求められる場面がたくさんあります。上で書いたように、その時はスマホではなく辞書や参考書で調べてみてほしいのですが、調べて出てきた説明文を全部覚える必要はありません。説明文のどの箇所が重要なのか、もっと言うと何を聞かれたら今調べた内容が答えになるのかが分かる人は、読解力が高いです。

読解力は文章に触れるだけで自然と身につく人もいれば、身につかない人もいます。身につかない人の特徴は、文章を読んでいてもどこが大事なのかをあまり意識していないということです。どこが大事なのか意識して読みなさいと言っても、何を意識したらよいのか分からないものです。当塾ではそのような学生に向けて読解力が身につく公式を伝授する体験授業を実施しています。ただ単に文章を読んでここが大事!というのではなく、どの文章でも通用する公式をお教えしますので、ぜひご検討ください。

三つ目は「やる気」です。今更当たり前のことのようにお感じになるかもしれませんが、大事なのは本人のやる気であり、強制しすぎは毒ということです。本人のやる気がないのに、ゲームやスマホを過度に制限し、勉強に取り組ませようとしても意味がありません。貴重で多感な学生生活の中で思い出になるものや身につくものが少なすぎます。中学生以上で制限をつけるのであれば、親子間で話して合意の上でしてほしいと思います。

そして多くの場合強制的にスマホやゲームの制限を受けてきた人は、残念ですがそれほど良い成果が残せない傾向にあります。自力で誘惑を断ち切って課題に取り組んできたわけではないので、いざ大学生になって、社会人になって、自分で物事を決めることができる環境下になったとき、遊びほうけてしまいます。小中高の時よりも誘惑が多い環境に、一人で立ち向かわなければいけません。

「大学に行けばいいところに就職できる。だから中学高校のうちに強制させて勉強に取り組ませるのが子供のため」というのは本当に危険です。大学に行っても就職できない人はたくさんいますし(特に文系)、人格形成において重要な時期である学生時代をそのようにして過ごすのは将来に大きな影響を与えます。大人になってからも、昔の嫌なことは10年20年経っても覚えているものです。

ではどうすれば子供はやる気になってくれるのか、それは上記の環境づくりができているか、集中力と読解力が身についているか、そして勉強に興味があるかどうかだと思います。勉強が大好き!という学生はほとんどいませんが、例えば正解できたことが嬉しい、数学(算数)の答えを出すまでの計算が楽しい、理科であれば植物の仕組みや生物の分類を知るのが面白い、社会の地理であれば旅行に行くならここが良いな、など、勉強をしながら楽しむことができれば、それが覚えるきっかけとなってくれます。とはいえ、勉強が好きかを子供に聞き出すのはかなり難しいと思います。子供側も、言語化するほど楽しい、面白いと完全に意識しているわけではない場合が多いです。また「勉強が楽しい」と言う=ダサい、周りは勉強が嫌いなのに恥ずかしい、と思う学生もいます。このように、勉強と学生個人との関係は第三者には測りにくいものだと感じます。その点が、勉強、自習は才能で決まると言われる所以の1つであるように思います。

まとめ

進学校では学習量が非常に多いので、出される課題も中学の時とは比べ物になりません。課題を正攻法でこなしていくだけでもとても時間がかかります。

高校生活ではまず課題を自力でこなせるようになるために、プラスアルファで自主的な勉強ができるようになるために、そして大学受験対策ができるように、早めに自習する力を身に付けておいてほしいと思います。そのためには、

  • できるだけ物が少ない環境
  • 静かな環境
  • スマホは使わない、持ち込まない
  • 集中力、読解力、やる気

これらが自習ができる人になるために必要なことと考えています。ぜひご参考になさってください。